2007-10-11

「世界屠畜紀行」


日を追うごとに、涼しさを通り越して寒くなっている。土曜日には、かなり強い寒気がくるそうで、カボチャの収穫が終わっていない農家は、かなり焦っている様子。霜があたったら、商品にならない。また、切り口のへたが、よく乾燥していなかったらすぐに腐る。30センチの高さから落としても、内部から腐っていく。カラーの方がよっぽど丈夫だと思うくらい繊細な作物である。

どうして、カボチャの話題かというと、内澤旬子という人が書いた「世界屠畜紀行」を読んでふと思い出したことがあったから。以前、東京に住む知人にカボチャをまるごと一個送った時、「小学生のこどもたちに、いい勉強になりました。カボチャの姿を教えることができました。」とお手紙をもらったことがある。彼女のこどもたちは、スーパーでカット売りされているカボチャの姿しか見たことがなかったのだ。その時は、「うそーっ!」と、思ったが、この「世界屠畜紀行」を読んで、自分が、「カット売りされてパック詰めされている肉」の姿しか見たことがないことに気づいた。

「うそーっ!」

。。。ではない。多分、大多数の日本人がそうだろう。「世界屠畜紀行」では、「世界では、肉の屠畜は、どう行なわれているのか?」がルポルタージュされている。著者の繊細なイラスト付きで。訪れた国は、韓国、モンゴル、エジプト、チェコ、インド、東京芝浦、沖縄、アメリカなど。東京では、皮のなめしや、内蔵の処理についてのレポも行なっている。まえがきによると、
いつも肉を食べているのに、「肉になるまで」のことをまるで考えたことがなかった。(中略)それどころか屠畜に関して書かれた本もほとんどない。(中略)肉になるまでの過程について何も想像してほしくないかのようだった。


ということで、著者は、世界をめぐる。彼女がこのルポを行なう上で大きなアドバンテージは、肉処理の光景を、「気持ち悪ーい」と思わない感性をもっていること。どのようにさばかれるのか、微に入り細に入り、すべて見たい!という好奇心が原動力。このパワーなくしては、成されなかっただろう仕事である。「神への供物」として捧げられるために屠られる(ほふられる)羊や、ラクダ。「生きていくための殺生」として肉食を許容しているモンゴル仏教。ここでの屠畜は、生活に密着していて「いのちをいただく」という感性を大切にして行なわれている。東京芝浦の大規模な屠場でも、職人気質がまだ生きている。「いい仕事をする」ということにプライドをかけて家畜を肉に変換していく。BSE検査の様子も、詳細に描かれている。

肉をつくる、というのは、ほんとうに大変な作業なのだ。パック売りの薄切り肉をホイホイ買い物かごにいれてレジで清算し、食べてしまうのは、あっという間だけれど。

モンゴルや、イスラム圏での肉の屠りと対極をなしているのがアメリカの巨大屠畜場。ブッシュ大統領の出身地テキサスの大工場では、全世界の4%の牛肉を加工、出荷している。ここでは、コスト削減、能率重視が徹底されていて労働者は、技術者ではない。いつでも代替のきく存在。プライドを持ちようがない。そういう場所から日本の牛丼チェーンのこだわり「アメリカ産牛肉」が生産されているのだ。

「食べる」ってなんだろう?とか、どうして、「肉になるまで」に関して知らないでいていいのか?とか、読みながら頭グルグル。

あれもこれも、知らないことだらけ。イラストもリアルすぎず、それでいて臨場感あり。文体も、ざっくばらんで、読みやすい。一点、気になったことは、日本で、肉処理にあたってきた人々への差別がどこから生まれたのか?という大きなテーマも並行してさぐられていくのだが、この部分に関しては、「屠畜業」という側面だけでは、はかれないように思う。その意味で、ちょっと消化不良の感あり。

美味しいお肉が大好き!という人に、ぜひ読んでもらいたい。お肉がもっと美味しくなりますよ。

友人が貸してくれた本なのだが、読み応えたっぷりでした。ありがとう。


夕ごはん

秋刀魚の塩焼き
大根と豚肉の煮込み
レタス、トマト、タマネギのサラダ
人参の漬け物
いくらしょうゆ漬け
納豆
じゃがいもと揚げのみそしる

2 comments:

  1. 母になり色んな物が捌けるようになりました。嫁に来た時は魚も下ろせなかった私ですが、ここに嫁いで今は肉も捌けます!(カッコイイ~なぁ)一番強烈だったのは「シカ」思い出したくない一品です(笑)

    ハロウィンパーティー、ぜひK君のお母さんに仮装して来てもらいましょう。

    先日、私もお友達の南瓜収穫に「おしうり」で行ってきました。寒くなる前に片付けられたので、よそのお宅だとはいえ、同じ農家として安心して眠れました。

    ReplyDelete
  2. フジコ様

    カボチャの収穫のお手伝い、お疲れさまでした。霜がおりる前でよかったですね。

    エゾシカをさばくのは、大変そう。母は強し!ですね。

    おりひめ

    ReplyDelete