2008-03-09

<現代家族>の誕生

ホラー本の続編のご紹介。本編では、60年代以降生まれの主婦を育てた「母親たちの顔」を浮き上がらせています。2004年に、前の調査に答えてくれた親を対象にした首都圏での聞き取り調査の報告、分析。対象者は,現在60代から70代ということです。

この「母親たち」は、どんな層かとうと、まず戦後日本の激動の時代に子ども時代を過ごしている。ずばり「食糧難世代」。イモ、カボチャが日常食だったので、「伝統的な日本の食事」で育っていない。さらに戦前から続いたさまざまな価値をおとなたちが180度転換させるのを目の当たりにしてきた。(「教科書済み塗り世代)つまり、「価値は、変わるもの。」を身をもって経験してきている。そして進駐軍による「民主主義教育」の洗礼をあびて、「古いものは、よくない。新しいものこそ素晴らしい」と信じてきた。さらに、自らが子育てをする時期には、高度経済成長で、レトルト食品、インスタント食品、「○○の素」が次々とでてきた世代。この母親たちにとっては、「カレー、ハンバーグ、グラタン」などの洋風ものが、「あこがれ」の食卓であった。

つまり、母親たちこそ「第一世代」なわけです。

振り返ってみたら、実家の冷蔵庫には、冷凍食品たくさんはいっていたなあ。母は、明治生まれの祖母(実母)が「トマトソースは嫌い」と言うのを顔をしかめて「古い人だからねー」と嫌がっていました。

目からウロコだったのは、「『伝統料理としてのおせち』は幻想である。」という点。先に書いたように、食卓が「壊れた」時代に育っているので、「自分の親から作り方を習う」ということがなかった。テレビや雑誌、本などで紹介されているのを見て、「ああ、『フツウ』はあれを作るのね」と、自らを叱咤して「学習」したそうだ。そもそも、庶民にとっての正月料理は、煮物と雑煮程度だったのがむかしだそうだ。(この意味で、我が家は、「伝統的」かも?)

自分たちが「母親から料理をならっていない」ので、自分の娘たちは「忙しいから、たいへんだから、やらないだけ。だけど本を見てパンを焼いたりケーキを焼いたりするんだから大丈夫。」と、娘たちの食卓の荒れ方に対して口をはさむことはない。「個性を尊重」しているから。むしろ自分たちが娘たちに「してあげたい」世代だから、古くさい価値を伝達するというより、自分が「作ってあげれば良い」と思っている。

気まぐれで食卓を用意しない娘世代たちの問題は「毎日ルーティーンワークを地道にこなす」能力が育っていないことなのだが、そういった「能力」の伝達自体が家族間で行なわれていない、そんなこと必要ないととらえているのが現状という分析でした。

私が一番衝撃を受けたのは、著者も分析しているとおり「私だって、同じ境遇だったら、この被験者たちと同じように動いただろう」という事実に気づいたから。つまり,今私が「オモシロイ」とか「ベンリだねー」と何気なく選んでいること、考えている事が、大きな動きと帯同しているということに今更ながら驚いています。

著者がくりかえし言ってるように、この調査結果を見て「最近の若い人は」とか「信じられなーい」とかでくくってしまうのは、問題の解決にならないし、不毛だということ。それは、自らはまるでこの現象と関わりがないかのように「無関心を装う」のと同意だということは肝に銘じたい。

読んでいて残念だったのは、「デパ地下のおせち」や「伝統食」というのがある意味で「幻想」である、と指摘している一方、文脈から
著者が、「あるべき食卓」「あるべき母親像」のイメージを強固に持っていそうな点が気になった。イモカボチャは、やむを得なかったとして、むかしの日本の食卓なんて、「ごはんと干物と漬け物、みそしる」、だったんじゃない?で、それを用意するのって、そんなに「タイヘン」ではないはず。むしろ、母親世代からはじまった日本の食卓が、「ちゃんと作ったら目がまわる」ようにメンドクサイものなのではないでしょうか?あれをやろうとするから、また、レトルト、冷食、コンビニ食の裏側で、メディアや企業が「グルメ食」を喧伝してるから、「あれをやるのは、チョー無理!だから今日は、コンビニ弁当」という「気分」を作りはしないでしょうか?


“現代家族”の誕生―幻想系家族論の死
“現代家族”の誕生―幻想系家族論の死岩村 暢子

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star「親の顔が見てみたい」というバイアスのかかった調査に協力する人とは?
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star伝統の断絶

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夕ごはん


まだ、食べていないし。。。。

多分、

水菜とじゃがいものサラダ
豚肉の生姜焼き
長いもすりおろし
ニラとあげのみそしる

6 comments:

  1. それ,まさに母のことだわ。
    15年戦争の始まりに生まれて15歳で戦争が終わった世代だからねー。
    「戦後すぐに、通学の汽車に乗ってたらとなりに座ったおじさんが竹の皮の包みを開くと真っ白なおむすびとロースハムの厚切りが入ってた。そんなの見たことなかった」
    って夢見るような目つきで語っていたのを思い出しました。
    その根源的な記憶のせいか、ソーセージでも肉でも固まりのまま出すのが好きな人で,子供のあたしは嫌だったの。

    料理を仕込んでくれなかったのも、裁縫について聞くと教えないで自分で取り上げてやっちゃってたのも,バター好きじゃないくせにカレーやシチューだと意地になってバター使ってたのも、じゃあ「そういう世代だから」ってことなのか。

    なんだか今まで「うちの母は変な人」と思って悩んでたことなんかがこういう風にまとめられちゃうと妙に「あ,じゃあしょうがないんだ」って納得できてしまうわ。

    最後の分析の「気分」ね。
    大当たりだと思いますね。
    だけど、今はインターネットで簡単レシピもたくさん手に入るし,情報も食の入手方法も多様化してる。
    だから、第一世代ー第二世代よりも現象が枝分かれしていくんじゃないかな,と私は期待しちゃうけど。

    ねえ、この本には1・5世代→2.5世代のことは書かれてなかった?
    「オニババ」本はその間の世代を突いてたのがおもしろいと思ったんだけどな。
    (はいはい,ついに読みましたんですよ)

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  2. 1.5世代から2.5世代って、つまり、戦後生まれの親って感じですよね?団塊と団塊ジュニア?この部分にぴったりあてはまるのが、栗原はるみですよね。

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  3. 山女さま

    「世代」という、くくり方があてはまるかどうか?というのは、首都圏の200人くらいが対象だから、私の母の場合はドンピシャでしたが。

    「情報も食の入手方法も多様化している」ことは、事実だけどその「情報」がくせ者で、「私、レシピはあるし、調べる方法はもっているから、やる気になったらできるのよ」の「気分」を増幅させるだけでは?

    もんだいは、「つまらないごはん作りをやり続ける持続力」が「育っていない」点なのです。「ごはん作り」が
    「やる気」の有無で左右されていいの?ということ。

    実は、これ3部作。最終章は、さらにホラーでした。

    みかん様

    ナイスフォローありがとう。1、5世代ー2.5世代は「団塊」と「団塊ジュニア」。私も「栗原はるみ」がすぐに脳裏に浮かびました。マクロビオティックなんかにはまるのもこの両世代だよねー。

    「ごはん」がファッションになってるよね。疲れる。

    おりひめ

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  4. そうそう、ごはんが、ファッション化ってナーイス。
    ある日、栗原はるみの料理番組をみていた夫が叫んだ!
    「作ったもんは全部、皿にのせらんかあ!なんで、この人、全部つがんのお?」と怒り心頭(笑)
    できたものをちょこっとだけ皿に盛る行為が「超むかつく」みたいです(笑)

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  5. 実は「伝統料理は幻想」ってのを呼んだ時にすぐに頭に浮かんだのが「じゃ、栗原母娘はどうなの?」だったのです。
    そーかー、彼女らがその間世代だったか。
    つまり私が気になったのは0.5世代と1.5世代だったのですね。団塊とその親だな。

    みかんさんのご主人の反応、笑えるわ〜。

    「つまらないごはん作りをやり続ける持続力」
    うわ、これは痛い!
    最終章のレポも期待しています!

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  6. みかん様

    「食のファッション化」を防ぐのは、日頃はうっとおしい発言を多発する世の中の「夫族」かも。我が家でも、結婚当初、「納豆と海苔だけでいいから、料理研究家が紹介するようなしゃらくさい料理は作ってくれるな」と懇願(?)されました。おかげさまでラクチンです。夫に感謝。

    で、ミーハーな私は、ミーハーな母が送ってくれた「栗原はるみ本」を泣く泣く封印したのです。(ドンピシャ母娘)

    山女様

    「団塊」と「その親」ねー。夫は末っ子だからかろうじて「団塊」からはずれているので、もしかしたら夫の母は、「団塊を産んだ母族」?

    夫の思い出話によると、彼女は、「おりひめ母」の上をいく当時では「先端」な「母」だったみたい。なにせ、クリスマスにローストチキン。シュークリーム作りを習いに行ってたそうだから。

                 おりひめ

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