ずっと同じところに住んで、同じことをしていると「ああ、旅をしたい」と思うが、それも長く続くと「おうちが恋しい」というのはわかりますね。(ロマ族のような遊牧民は、「おうち」丸ごと動いているから、恋しくないんだろう。)
では、「おうちがない人」ってどんな気分?おうちがない状態で育つこどもって?
「わたしには家がないーハーバード大に行ったホームレス少女」(ローラリー・サマー著 竹書房2004)。自由奔放な母親に連れられて、シェルターを点々とし、毎日家財道具一切を持ってひたすら歩くような暮らしの幼年時代を経てのち、ハーバード大学に奨学生として入学、卒業した女性の自叙伝。彼女の母親は、ちょっとしたボタンの掛け違いから社会に居場所を見つけられず、「ホームレス」として福祉に頼る人生を送っているが感受性も芸術感覚も豊かな知性ある女性。そんな母親の薫陶があってこそ、ローラリーも「血も肉もある知性」を身につけ、その底辺生活からアメリカの頂点ともいえる「ハーバード大学生」にまでジェットコースターのように「格差」をはねのける。
ホームレス時代の生活描写も生き生きとして読み応えあるけれど、圧巻は、ハーバードという特権社会と「ホームレスあがり」という自分の出自との折り合いのつかなさで揺れる彼女の自己分析の部分。「ハーバードを受入れるということは、母の存在、自分のあり方を否定することになるのでは?」さらに、大学という「バベルの塔」が扱う知識とは「自分の外側にあるもので、その周囲を歩き回り、あれこれと突いたり眺めたりするもの(p244)」であるのに対し、彼女が求めていたものは、
学習はごく私的なもの、現実に即したものでありたかった。知識は洗濯物や食料が詰まった袋のようなもの、何ブロックもの距離を実際に抱えて運んではじめて習得できる。知識の重みや動きを、体と心で実感したいのだ。(p246)
こういう視点を持つ人が、社会をひっぱっていくといいのにね。ローラリーは現在、ボストンの学校で先生をしているそうです。
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夕ごはん
ハモの塩焼き
アスパラ
冷やしトマト
長いもすりおろし
納豆
きゃべつとわかめのみそしる
ローラリーと母親の物語は、いろんなものが詰まっていて、単なる自伝の域を超えてますよね。「路上のソリスト」って映画が上映中なのですが、(当地では7月中旬公開予定なのでまだみてないけど)これも、才能豊かなホームレスの話です。最近、才能豊かだが、病気や障がいのために世間になじめない彼らをはじき出している「社会」というのものの非寛容性というものを感じ、これでいいのだろうか?って感じます。今ある社会の枠に彼らを閉じ込めるのではなく、社会の方が開かれるべきだと思います。
ReplyDeleteドナ・ウィリアムズさんが「そもそもわたしたちの住んでいる世の中そのものが、精神分裂傾向のある社会なのではあるまいか。疎外されやすく、孤立しやすい社会なのではないか。」といってるのですが、まったく同感です。
★路上のソリスト(本もでてます)
http://rojyo-soloist.jp/site/