著者は、本人曰く、挫折の連続で、人生に自信が持てず、「ひきこもり」の状態にまで落ち込んだ段階から、たまたま進んだ福祉の世界から、自分で「宅老所」をたちあげ、広げている30代の青年。この「井戸端げんき」の最初の利用者は、著者自身の父親。くも膜下出血の四肢麻痺からリハビリで回復したものの、デイサービスと折り合わず、家でぼーっとした日々を送るうちに廃人同様になりそうだった父親の「居場所」作りが発端だった。
本書では、民間人としてどうやって「宅老所」を作り上げて行ったのかの記録と、効率重視で、「工場」のようになってしまっている大きい公的な介護施設の問題点。「井戸端げんき」では、何ができるのか?などが、かなりざっくばらんと乱雑な感じで紹介されている。その雑多さも、「井戸端げんき」そのままなんだろう。
認知症で暴言、暴力で周りが扱いにくいと感じているような「おじいちゃん」に、「おじいちゃんがいないと、『井戸端げんき』は、なりたたないよ」と「顔役」の役割を与えたら、みごとに「いいおじいちゃん」に変身。失語症の人には言語訓練より生活訓練、と、その人の「今、あるこの状態」を受入れるという姿勢。スタッフだか、利用者だか、ボランティアだかわからないけど、みんなが一緒に「生活」している、お互いがお互いを「助けている」「受入れている」という「場」の大切さが、ひとつひとつのエピソードから伝わってくる。
みんなが、みんな右肩上がりで行けるわけじゃない。下がってしまった人でも、井戸端のような場所でじいちゃん、ばあちゃんとワーワーやって和める時間を作れるならそれでいいんじゃないだろうか。それ以上求めなくても、経済的に豊かじゃなくても支え合うことができれば、人は生きていけるんじゃないだろうか。(中略)いい国にしよう、いい町にしよう、いい生き方にしよう、いい私にしよう、そんな上昇志向に縛られることをやめて、B級でもいいじゃないかと思えたとき,人はうんと優しくなれる。(p199)
著者はほぼ「人生」を「介護」にかけている。それは、やりがいがある仕事であると同時に、人に優しくなれる仕事であり、またとっても楽しい仕事のようだ。「介護」という仕事が、とっても魅力的に思える本でした。
奇跡の宅老所「井戸端げんき」物語 (介護ライブラリー) | |
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夕ごはん
ジンギスカン
わたしも、こんど、この本読んでみます。緊縮財政なので、すぐには、無理かもしれないけど。
ReplyDelete引用部分は、まさに、わたしも同じこと思ってて、「共感」!って感じです。
どうしても、介護やリハビリって、良くなろうとか、自立とか、その行動に「向上心」が求められるだよね。でも、もう、年寄りにそれを求めても無理って場面も多く、ちょっと、がんばるのやめて、脱力してみたら、意外と、気楽な老後も過ごせるのではないかと、思うこともある。でも、反面、単なる怠惰や意地悪とか、まさに「七つの大罪」を地でいく場面にも遭遇するのが、介護の現実でもあって。ほんとにネガティブなものって、存在するんですよ。それと、どう、向き合えばいいのか、ってのが、わたしの課題です。
介護の二つの現実の間を、振り子のように揺れておりまする。
>みかん様
ReplyDeleteたしかに「七つの大罪」に直面したら、どうしたらいいのか?は、アリですよね。
この本は、図書館で借りました。で、この著者がほとんど「こころのお師匠様」とあがめているのが、三好春樹さん。
三好春樹「関係障害論」を今度図書館でさがしてみようと思います。何か「七つの大罪」についてのヒントがありそうです。
おりひめ